第6回『名もなく貧しく美しく』
昭和22年(1947)生まれの僕にはこの映画の世界がよく分かる。
僕の同級生にもお弁当を持って来られないのがいたし、酔って暴れるおじさんがいた。
あの頃どこの家の庭にもダリアとひまわりの花が咲いていた。
引揚者住宅というのもあったし間借りというのもあった。
みんなが貧しかったが肌の温もりのある時代だった。
『名もなく貧しく美しく』 そんな時代のモノクローム映画。
1961年の日本映画の各賞を総なめにした珠玉の1本である。
聾唖の夫婦(小林桂樹、高峰秀子)の貧しいながらも肩寄せ合って生きる物語といえば、「あぁ、お涙ちょうだいのヒューマンものね」と片づけられそうだが観れば分かる。
監督、脚本松山善三の時代を、そして人間というものを静かに冷静に見つめる姿勢、
その徹底した人間賛歌、優しさが染み込んで来る。
この映画を見たFMGワークスタジオのレッスン生の率直な感想がそれを物語っている。
必見の1本。経済価値でしか物事を判断しない今だからこそ。
- 木原陽子(28)
何であんなに泣いたのだろうか。
悲しい苦しいと言うのでなく、ただ幸せをかみしめている秋子(高峰秀子)の表情を見ていると、
心が千々に乱れ眼から涙が全部出てしまった。
見終わった時の冷泉さんの「みんなとても愛されていたんだよ、僕も皆も。だから涙が出るんだよ」
それを聞いて腑に落ち救われました。
私の中にもこうした我慢出来ない感情が芽を出す種が蒔かれていたのだ。
今は断片的にしか思い出せなくなってしまった亡き母と過ごした「幸せの記憶」が、
私にも根付いていた事に不思議な事に安心していた。 - 松本龍平(22)
声を発していなくても充分に言葉は伝わるのだと思った。
列車のシーンが印象的でした。 - 川合諒(23)
後半の茶の間での夫婦2人のシーンが印象的でした。
長年の苦労の末だからこそ得られた今の幸せをしみじみと話し合う様子は、声のない手話だからこそで
安心感からか身を寄せたくなりました。 - 青木冬太(24)
冒頭のシーンとラストの家族3人の手話の影絵が印象的でした。
仲むつまじい家族であったこと。そしてそこから一人が欠けてしまい、
もうこの3人で影絵は出来ないんだなぁと思って辛くなった。 - 白木孝宣(23)
自分が幸せな事に気づいた。それだけでもこの映画を見てよかった。 - 清水葉月(25)
劇中「普通」という言葉がなんども繰り返される。その度にどきどきした。
まるで隠し事がばれた時のように。「普通」ってなんだろうか。
時が経ち、一人息子の一郎は成長し、幼い頃には受け入れる事が出来なかった不具者の両親を思って不平等な世の中に憤慨する。
その孫に祖母(原泉)は言う。「いいじゃないか、それでもこうしてみんなでご飯が食べられるんだから」と。
その通りだと思う。物も店も溢れている今こそ私達は気づくべきだろう。
この先私の中で色褪せることなく生き続ける映画になるだろう。
STORY:
波騒ぐ戦後の幾歳月を貫く聾唖者夫婦の愛!人間愛の極を謳う感動詩!戦後の混乱期を懸命に生きようとする聾唖者同士の夫婦の姿を描いた感動のドラマ。
『名もなく貧しく美しく』
製作年:1961年
製作国:日本
配給:東宝
監督:松山善三
脚本:松山善三
キャスト:高峰秀子、小林桂樹、原泉、草笛光子
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