冷泉さん(を)、語る。
冷泉「原稿書くの嫌だから、俺喋るから瀬戸が文字に
起こしてくれる?」
冷泉「酒、奢ってやるから。(笑)」
冷泉さんは正直者だ。
「原稿書くの嫌だから」に、その正直さが溢れている。
⾃らを『先⽣』と呼ばれることを嫌い、過剰な敬語と『マ
イケル・ジャクソンさん』の『さん』を諫め、⾞座になっ
て豚汁鍋を囲むことが⼀番のレッスンだと⾔っては率先し
て⼿際良くキャベツを切って(稽古場で)
20年近くもの間、fmgワークスタジオで若者たちの指導に
あたった冷泉さん。
私、⽊原陽⼦(葛飾ぎょろめ)は、2013年に⾏われた
fmg60周年記念公演「かもめ」出演をきっかけに約7年
ワークスタジオに通っていたのだけれど
冷泉さんはその7年間。いや恐らくきっと20年以上、肝
の部分では同じことを⾔っていた。
それは⼈と正直に、誠実に向き合うこと。
相⼿役に台詞を⾔う時はもちろん、事務所のスタッフをは
じめ周りの⼈たち、来てくれたお客様。そして、未熟な⾃
分⾃⾝ともまっすぐ向き合うこと。
この連載では、そんな正直な冷泉さんが2011年に語った
⾔葉を、これまた正直にお酒に釣られた瀬⼾さん(※1)
が起こしたものを、前中後の3編に分けてお届けします。
『先⽣』や『さん』がだめだったのも、全てはそういう事
だったんだなぁと答え合わせするような、学び直すような気
持ちになる内容です。
冷泉さんの言葉が俳優に限らず職場・家族・恋⼈…あらゆ
る場⾯で当てはまることに気づいては、当サイトのスタッ
フ全員で「そういうことなんだよねぇ…」と噛み締めたり
もしました。
「いや、そういうことってどう⾔うこと?」と思ったあな
たも、「そういうことなんだよなぁ」と改めて思いたいあな
たも、ぜひ、最後まで読んでみてください。
正直、名作です。
冷泉さん、語る。【前編】
冷泉公裕「“らしい”ってのは、一番嫌だと思う。」
俳優さんっていうのは、
「台本をやらなくちゃいけない」
と言う使命感がある。
恐いのは、台本を丁寧に、
気持ちの丁寧じゃなく”形式上に”
丁寧にやっちゃうと一段落しちゃう
と言う所があって
後は慣れて来て回転がよくなって、
自分では凄くやっている気になるんだけど
実は僕はそういう芝居を
面白いと思ったことがないんですね。
ギリギリ忘れるか、忘れないか位の緊張感と
スリリングな物がある方が活き活きとする事を
いつも見ているので、
そういう状態を意識的に作る、
その為に台本がない方がいい。
台本は勿論あるんだけど、台本にとらわれない
台本の趣旨をどう使うかって言うことを
目指して稽古をする。
それらしい、何からしい、
例えば老人らしい、悪人らしい、
その何か”らしい”ってのは
僕は一番嫌だと思う。
本人の素みたいなものが、
じゃあ何もしてねぇじゃねえか、
と言われるかもしれないけれど、
実は、人の前に出るって事が
素じゃないんだよね。
その落差みたいなものが妙に動いた時に、
凄く光り輝いた俳優さんが
生まれるんですよね。
だから台詞を忘れたり、失敗した瞬間の
次の動きとか台詞が凄くいいんだよね。
だからって意図的にそういう事を作るのは
難しいんだけど、稽古の間でなるべく
その感覚を大事にしていくことですね。
その為には、台本台本って
言わない方がいいな、と。
最終的には、自分に出来上がったもので
違和感のないもが出来てきて、修正して、
物語的にこういう風にした方がいいなって
こっちで作っていって
あたかも自分の言葉で無理なくやった方が
見てる人には心地良いんじゃないかなぁって。
そういう芝居作り、アクティングの基本
みたいな事が、このワークスタジオで
出来ればいいんじゃないかなぁ。
(中編につづきます)
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