第5回 『ブリッジ・オブ・スパイ』
良い映画は冒頭の30秒でわしづかみにされる。正にこの映画がそうだ。
汚い小部屋。遠く街のノイズ。古本屋が似合う中年男のアップ。
鏡に映して自画像を描いている。突然響き渡る激しい足音とノック。逮捕される男。
男はソ連のスパイでアメリカ国籍を持ちニューヨークで暮らしていた。
トム・ハンクスは米ソの駆け引き上その男の弁護を引き受けさせられる弁護士。
トム・ハンクスがいい。中年の渋さが加わってリアリティがある。
何故敵側のスパイの弁護を引き受けるのかと詰る人に彼は云う。
「例えスパイであっても合衆国の一員であるかぎり弁護を受ける権利がある。
君はドイツ系、僕はアイリッシュといった具合にこの国は多種多様な人々で構成されている。
政治信条の違い、肌の色、宗教の差で区別されてはならない。
その時代の大多数が支持する政策に反対する1人の人間を大切にするのが民主主義だ。
むしろそうした少数派の人の言葉こそ耳を傾けるべきだろう。
多種多様な国民を統べる唯一のもの、それはこの国の憲法だ」
なんて美しいヒューマンな言葉だろうか。
ひるがえって今この国では「自己責任」といったそれでは国は必要ないではないかと言いたくなる言葉が正義面してまかり通っている。
この弁護士の言葉を「選挙で勝ったんだから何したっていいんだもんん」と無理を通すどこかの国の首相に聞かせたい。
東西冷戦、ベルリンの壁といった歴史の彼方に固まってしまった言葉が映像を通して生々しく甦って来る。
或る日東ベルリンの恋人に会いに行き西の部屋に戻ろうとする男子学生は目の前に突然出来上がった壁に遮られ帰れなくなる。
この圧倒的な恐怖のリアリティにぞっとさせられる。
監督スピルバーグ、主演トム・ハンクス2人のまぎれもない最高傑作であろう。
そしてスパイに扮する英国俳優マーク・ライアンスからは当分目が離せないだろう。
STORY:
アメリカとソ連が一触即発の状態にあった冷戦下の1950~60年代。ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。彼は、米国が身柄を拘束したソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、世界の平和を左右しかねない重大な任務を託される。それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕えられたアメリカ人スパイを交換することだった。良き夫、良き父、良き市民として平凡な人生を歩んできたジェームズは、米ソの全面核戦争を阻止するため、全力で不可能に立ち向かってゆく……。
原題:BRIDGE OF SPIES
製作年:2015年
製作国:アメリカ
配給:20世紀フォックス映画
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ジョエル・コーエン 、 イーサン・コーエン
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/index.html
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!