ルージュの手紙

第13回『ルージュの手紙』

ルージュの手紙

「ルージュの手紙」(2017、仏)。
今年74才になるというカトリーヌ・ドヌーブの恐ろしいまでの存在感!

何十年ぶりかに目の前に現れた血のつながらない母親は娘との同居を望む。
長い間ひとりで助産婦として生きて来た生真面目な娘には耐えられない酒とバクチに明け暮れる老いた母親。
しかし時の流れは娘の心を徐々に溶かしていく。

彼女が母を受け入れようとした時届く一通の手紙。
そこには言葉はなく色鮮やかなキスマークが一つあるだけだった。
それは母からの別れのメッセージだった。

ドヌーブ、そして娘役を演じるカトリーヌ・クロ、両名優の前にも後にも縦にも横にもぶれない演技が素晴らしい。
「演技」とは何かという事をつくづく思い知らされる。

劇中何回かにわたって出てくる出産シーンのリアルさに、これは?
と思っていたが、
パンフレットによると監督のこだわりによる“ほんものの出産シーン”だった。
生(誕生)と死という事なのだろう。

俳優出身監督マルタン・プロヴォの目配りの良さに感心する。
久しぶりに普通の“大人”のいい映画を観た。
原題はSage femme(賢い女性たち)


『ルージュの手紙』

助産婦として働きながら、女手ひとつで息子を育てあげ、地道な日々を送っていたクレール。
そんな彼女のもとに、30年前に突然姿を消した、血のつながらない母親ベアトリスから
「今すぐ、あなたに会いたい」と電話が入る。自己中心的でお酒とギャンブルが大好きなベアトリスは、クレールとは真逆の性格。ベアトリスと再会したクレールは、自由奔放な継母のペースに巻き込まれ、反発を繰り返しながらも、やがて人生の歓びや愉しみに気づき始める。二人の間に新たな絆が生まれる時、ベアトリスは“ある決断”をする事になり…。失われた時間を埋めながら、彼女たちが見つけたものとは——。

監督:マルタン・プロボ
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、カトリーヌ・フロ、オリビエ・グルメ、カンタン・ドルメール、ミレーヌ・ドモンジョ
2017年/フランス/ 117分/
原題:The Midwife/Sage Femme
配給:キノフィルムズ

『ルージュの手紙』公式サイトより)

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第12回 『倫敦から来た男』

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前々から気になっていたがやっと観た。今どきなかなか観ることがない傑作だ。

ハンガリーの鬼才タラ・ベールは徹底的に説明を拒否する。

モノクロームの光と影。金をめぐる殺人事件だがその全容は最後の最後まで分からない。

監督はわざと分からなさを極限まで引っ張っているかのよう。

あまりにばらばらなジグソーパズルの断片の少なさに中盤まで何度か観るのを放棄しかけるが後半に行くにつれてその画面、その演技から眼がはなせなくなる。

世界中の映画人が絶賛するはずだ。

モノクロームの美しさとハンガリー俳優たちの素晴らしい底力には一見も二見も三見もするほどだ。

特に殺されてしまう犯人『倫敦から来た男』の妻のハンガリー女優スィルテシュ・アーギの凄さにはただただ脱帽するしかない。

説明だけの雰囲気芝居が横行しているわが国のタレントたちもたまにはこれぞ演技というものを観たらいい。

また観たくなる麻薬性があるなこの作品は!


『倫敦から来た男』

ある晩、静かな港で起こった殺人事件。
偶然にも大金を手に入れた男と失った男。
二人の人生が交錯し、運命の歯車が狂ってゆく。

伝説的映画『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の鬼才タル・ベーラ監督と
20世紀を代表する文豪ジョルジュ・シムノンが放つ孤高のノワール・サスペンス

監督:タル・ベーラ
原作:ジョルジュ・シムノン「倫敦(ロンドン)から来た男」(河出書房新社) 共同監督・編集:フラニツキー・アーグネシュ
出演ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン
2007年/ハンガリー=ドイツ=フランス/138分/35mm/ヨーロピアンビスタ/ドルビーデジタル
原題:The Man from London 後援:駐日ハンガリー共和国大使館、ハンガリー政府観光局
配給:ビターズ・エンド

ビターズ・エンド 『倫敦から来た男』 公式サイトより

 

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第11回 『クイーン』/『紐育の天使』

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前々から気になっていたヘレン・ミレン主演の「クイーン」を見た。

面白かった。

ダイアナ妃の死という生々しい時間軸の渦中のドラマだが見終わった後の味わいは意外にさっぱり。

王室ものというしばりの距離の取り方が製作側が絶妙なせいだろうな。

そしてなんと言ってもエリザベス女王に扮するヘレン・ミレンの底力!

ただただそれに尽きるか!王室一家の形象もユーモアたっぷり。

中でもチャールズ皇太子の腰のなさはリアリティーたっぷり。

しかしこうしたドラマを作れるイギリスという国と国民に民度の高い成熟を見る。

翻って僕達の国は…。

 

早く目が覚めたので古いアメリカ映画を観る。

「紐育の天使」モノクロームの画面の鮮やかか美しさ。

主演のリタ・ヘイワースは大根だがチンピラのダグラス・フェアバンクス・JRの味わいはなかなかのもの!

ラストが大甘なのがなぁ。

でも娯楽としての映画だから当時の観客にはこの程合いが良かったのだろうな。


【クイーン】
ダイアナ元皇太子妃が交通事故で急逝した直後のイギリス王室の内幕を描いた作品。かねてからダイアナとの不仲説が噂され、事故後も沈黙を貫き通そうとするエリザベス女王に、国民は次第に不満を募らせはじめる。そんな中、就任したばかりの首相トニー・ブレアが王室と国民の和解に奔走する。ひとりの人間として苦悩するエリザベス女王を見事に演じたヘレン・ミレンは、アカデミー賞をはじめ多くの映画賞で主演女優賞に輝いた。(映画.com より)

原題:The Queen
製作年:2006年
製作国:イギリス・フランス・イタリア合作
配給:エイベックス・エンタテインメント
監督:スティーブン・フリアーズ
公式サイト


【紐育(ニューヨーク)の天使】
3,000ドルの横領がバレて失意のどん底にあるエングルはクラブへ向かう。
そこで大枚のチップを撒く彼を見て金持ちだと勘違いしたオブライエンは、知り合ったばかりの美女ニーナの手を借りて彼から大金を巻き上げようと企む。
そんな矢先、泥酔した劇作家ギボンズがエングルの遺書を偶然にも見つけてしまう。
オブライエンの目論見は敢え無く空振りに終わるが、3人はエングルの自殺を阻止するために大胆な行動を起こす。

原題:Angels Over Broadway
製作年: 1940年
製作国:アメリカ
監督:ベン・ヘクト

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第8回 イタリア映画『緑はよみがえる』

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硬いブロンズを鑿で刻み込んだような。いままでに観たことがない戦争映画。

詩的にして先鋭。塹壕に閉じ込めらた兵士たちは目の前を走り抜ける兎にくっきりと立つ落葉松に心を寄せる。

その美しい月明かりの雪原。

「木靴の樹」の名匠エルマンノ・オルミ監督の新作。兵士たちの肉体を吹き飛ばす砲弾のリアルさ。
1時間20分身じろぎも出来ずこの美しい戦争映画に見入った。
「西部戦線異状なし」に似ているがリアルさが濃い。
劇中羊飼いの言葉「戦争は休む事なく大地をさまよう醜い獣だ。」

また一つ人間の愚行に刃を突きつける戦争映画が生まれた。


『緑はよみがえる』

STORY:
1917年、冬。第一次世界大戦下のイタリア・アルプス、アジア―ゴ高原。雪の山中に、イタリア、オーストリア両軍ともに塹壕を掘り戦況は膠着していた。敵は姿を見せないが、その息づかいが聞こえるほど近くにひそんでいる。劣悪な環境の塹壕に押し込められた兵士たちは、いつ落ちてくるかもわからない砲弾に怯え、戦意も失い、家路につくことだけを願っていた。彼らの唯一の楽しみといえば、家族、恋人から送られてくる手紙だけだ。
そんな時、厳しい戦況を知らない平地の司令部が出した理不尽な命令を携え、少佐と少年の面影を残す若い中尉が前線へとやってくる。通信が敵に傍受されているため、新たな通信ケーブルを敷けというのだ。命令を受けた大尉は、「土地の起伏も考えず地図をなぞっただけの計画だ。この月明かりの下で外へ出れば、狙撃兵の餌食だ!」と強く抗議し、軍位を返上してしまう。後を任されたのは何の経験もない若い中尉だった。彼は、想像とは違う戦争の酷薄さと、無力感に打ちのめされながらも、母への手紙にこう綴る。「愛する母さん、一番難しいのは、人を赦すことですが、人が人を赦せなければ人間とは何なのでしょうか」と・・・。

製作年:2014年
製作国:イタリア
配給:チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
監督:エルマンノ・オルミ
脚本:エルマンノ・オルミ
製作:ルイジ・ムジーニ、エリザベッタ・オルミ
キャスト:クラウディオ・サンタマリア、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、フランチェスコ・フォルミケッティ、アンドレア・ディ・マリア、ニッコロ・センニ
公式サイト

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第5回 『ブリッジ・オブ・スパイ』

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良い映画は冒頭の30秒でわしづかみにされる。正にこの映画がそうだ。
汚い小部屋。遠く街のノイズ。古本屋が似合う中年男のアップ。
鏡に映して自画像を描いている。突然響き渡る激しい足音とノック。逮捕される男。
男はソ連のスパイでアメリカ国籍を持ちニューヨークで暮らしていた。

トム・ハンクスは米ソの駆け引き上その男の弁護を引き受けさせられる弁護士。
トム・ハンクスがいい。中年の渋さが加わってリアリティがある。
何故敵側のスパイの弁護を引き受けるのかと詰る人に彼は云う。

「例えスパイであっても合衆国の一員であるかぎり弁護を受ける権利がある。
君はドイツ系、僕はアイリッシュといった具合にこの国は多種多様な人々で構成されている。
政治信条の違い、肌の色、宗教の差で区別されてはならない。
その時代の大多数が支持する政策に反対する1人の人間を大切にするのが民主主義だ。
むしろそうした少数派の人の言葉こそ耳を傾けるべきだろう。
多種多様な国民を統べる唯一のもの、それはこの国の憲法だ」

なんて美しいヒューマンな言葉だろうか。
ひるがえって今この国では「自己責任」といったそれでは国は必要ないではないかと言いたくなる言葉が正義面してまかり通っている。
この弁護士の言葉を「選挙で勝ったんだから何したっていいんだもんん」と無理を通すどこかの国の首相に聞かせたい。
東西冷戦、ベルリンの壁といった歴史の彼方に固まってしまった言葉が映像を通して生々しく甦って来る。
或る日東ベルリンの恋人に会いに行き西の部屋に戻ろうとする男子学生は目の前に突然出来上がった壁に遮られ帰れなくなる。
この圧倒的な恐怖のリアリティにぞっとさせられる。

監督スピルバーグ、主演トム・ハンクス2人のまぎれもない最高傑作であろう。
そしてスパイに扮する英国俳優マーク・ライアンスからは当分目が離せないだろう。

 


STORY:
アメリカとソ連が一触即発の状態にあった冷戦下の1950~60年代。ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。彼は、米国が身柄を拘束したソ連のスパイの弁護を引き受けたことをきっかけに、世界の平和を左右しかねない重大な任務を託される。それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕えられたアメリカ人スパイを交換することだった。良き夫、良き父、良き市民として平凡な人生を歩んできたジェームズは、米ソの全面核戦争を阻止するため、全力で不可能に立ち向かってゆく……。

原題:BRIDGE OF SPIES
製作年:2015年
製作国:アメリカ
配給:20世紀フォックス映画
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ジョエル・コーエン 、 イーサン・コーエン
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/index.html

 

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冷泉のおすすめ今回は北欧サスペンスの秀作「真夜中のゆりかご」です。

サスペンスなので細かいことは書けない。
でもちょっとだけ。
若い刑事夫婦には赤ん坊がいる。薬物中毒のカップルにも赤ん坊がいる…。
この4人に離婚のショックからアルコール依存症になっている
中年の刑事を加えた5人が作り出す緊密なドラマ。
女性監督のスサンネ・ビアのべたつかない演出が
いつの間にかドラマの流れに乗せていってくれる。
重たいが美しい北欧の風景が劇中音楽のように染みる。
チラシには「極上の北欧サスペンス」とあったが
僕は「極上の人間ドラマ」といいたい。
終盤にかすかに漂う静かな未来への明るさにホッとさせられた。
「千年の一滴」「イミテーションゲーム」を超える
「真夜中のゆりかご」大大おすすめです。



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真夜中のゆりかご』 (2014年/デンマーク)
刑事が下した決断は、正義なのか、過ちなのか。『未来を生きる君たちへ』アカデミー賞受賞コンビが贈る、北欧サスペンス。

 

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冷泉のこの映画見て欲しいなー。

「イミテーションゲーム」を下高井戸シネマで見ました。
絶対に今や見逃す事の出来ないベネディクト・カンバーバッチの主演映画。
期待通りでした。ドイツのスーパー暗号機エニグマの設定解読に
成功した数学者はゲイだった。コンピューターの元となるものを作った。
戦争の影の殊勲者。天才数学者は同性愛者だった。
といったともすれば大活劇、どろどろものになりかねない題材を
人間ドラマとして構築したスタッフに拍手!
そして哀しみすら漂わせるカンバーバッチに大拍手。
黄昏のなか不思議なアンバランスでランニングする姿が残る。
廻りの英国演劇界の実力派の競演も見ものです。
実在の天才数学者は同性愛者として実刑判決を受ける。
2年の薬物治療の後自殺ーというテロップが静かなショックを呼ぶ。
そして59年後エリザベス女王は彼の偉大さを讃えて恩赦を発表。
その事で救われる訳ではないが英国という国の奥深さを感じた。
奥深さというならまさしくカンバーバッチの表層的でない演技がそれだった。
人間という不器用な可愛さ。
俳優修行の若者に見て欲しいなー。